=最終章=
*サブタイトル名*
○最終章・朱━賽を投げる者━
○最終章・黄丹(おうに)━琴線━
○最終章・紫苑(しおん)━化身━
○最終章・木賊(とくさ)━遺したもの━
○最終章・曙━その答え━
○最終章・縹(はなだ)━愛と書く━
○最終章・半(はした)━切り札━
○最終章・空五倍子(うつぶし)━鼠の群れ━
○最終章・赤白橡━けじめ━
○最終章・青白橡━魂の同じ━
○最終章・浅葱━覚悟━
○最終章・紫紺━散花━
○最終章・常盤━炎だけを残して━





*故事・歴史・その他*
◎高槻

◎赤眉の乱

◎調虎離山の計


*名言*

*キーワード*
太郎「八千代!」
八千代「あんたが悪いんやで うちを利用したりするからや」
太郎「…そうや 利用さしてもろた
   おまえはオレのこともなんも知らんで
   よう寝床でべらべらしゃべってくれたわな
   ほとんどがしょうもない情報やったけど
   おまけにええ女やったしな
   よう楽しませてもろたわ」
八千代「太郎ちゃん!」
<八千代 泣き叫びながら>
蜂也「女を連れていけ」

太郎「蜂也 逆行しくさってえ
   おまえらみたいなんが いてるよってに
   時代の変わるのが遅れるんじゃあ」
蜂也「押しつけるな それは単におまえら反逆者側の考えだろう」
八千代「太郎ちゃん」
太郎(八千代… あかん あかんわ タタラ 揚羽
   書かな 残さなあかんのに
   オレが 先に死んで どないすんのやあっ」
蜂也「しぶとい」
<背中に刀が刺さる>
回想
じいさん「死にそうになった時にはなあ
     目の前にあるものに
     念を送るねん
     ほいたら それに乗り移って 死んだあとも
     それと一緒に生きていけるんやて」
<蝿が太郎の視界に入る>
太郎(蝿か こんなもんしかないんか
   オレは 見たかったんや
   この国の移り変わりを 王家の最期を
   夜明けの光を
   見て 知らせて 残したいんや
   せな あかんやろ おもろい時代に生まれたんや
   せなあかんやろ オレが!)
<刀が刺さる ドス ドッ ドスッ>
太郎(死ねへんて 見るんや 見届けたる オレが…)
<太郎、死す>

蜂也「ご苦労 八千代
   女とは 恐ろしい
   ヤツはあんなにおまえのことをかばっていたのにな」
八千代「かばってた…?」
蜂也「ヤツが最期に言っていたのは おまえは何も知らず
   関係ないから 助けてくれと いう意味じゃなかったか」

<さらし者にされる太郎と八千代を見て>
京の子供「ねえ あの人 どんな悪いことをしたの?」
母親「しっ 黙ってなさい」
揚羽「あんまり 悪いことは してないんだよ」
京の子供「じゃあ どうして 罰を受けたの?」
揚羽「したいことをしたから 思うように 生きたから」
京の子供「それって なんか 変だね」
揚羽「変だね」
母親「来なさい」
京の子供「ねえ あのおじさん 泣いてたよ
     変だね…」

「戦っているのに 死力を尽くして 戦っているはずなのに
 なのに まるで 2人が 心を確かめ合っているように見える
 心の声というものがあるのならば
 この2人には 聞こえているのだ 互いの声が」

マダムバタフライ「揚羽…いや帰蝶は 鬼気迫るようだね かわいそうに
         この子は 何ひとつ 望まないのに
         何ひとつ 自分のためには 望まないのに
         それでも 多くを失ってゆくんだねえ…」

揚羽「夜郎組は 何を信じているんだ?
   信じるものがなくて かわいそうだな」

多聞「タタラは 心で 泣くのだす」
七尾「は? 多聞兄さん 何か言いました?」
多聞「べつにー」
増長「うむ 将とは 皆そういうものだ
   タタラの兵は不思議だな
   それぞれが自分で判断し
   動いている なのに バラバラにはならない」

更紗「避けられない 戦だとしたら
   仲間が誰も死なない戦にしたい

   ナギ それって矛盾してると思う?」
ナギ「生を必する時は死す
   死を必する時は生く…といいますよ」
更紗「死にたくないと思ったら
   かえって死んじゃうってこと?
   そんなの変だよ
   死んでもいいと思ってる人となんか 一緒に戦いたくないもん」
ナギ「あなたの信じるようになさい」

群竹「あ 浅葱さま 早くお逃げ下さい」
浅葱「群竹か 僕を助けるように 言われて来たの?」
群竹「…いえ… 私の独断で…」
浅葱「じゃあさ 僕は 巻きぞえくって 死んでもアリなんだ?」
銀子「あなたを次期国王に」
浅葱「(こんな次期国王が どこにいるのさ)」
更紗「浅葱! 何やってるんだ バカ
   さっさと逃げなさい」
浅葱「タタラ… それは油だ
<更紗の肩に火が…>
浅葱「タタラ」

那智「わいはな 鯨も捕るし 魚も食うし 猪も捕るわい 熊もとったぞ
   けど 山もきのこも 魚も 鳥も 動物も おいしいもんも食えんもんもー わいは好っきや
   わいは この世の財産 くちゃくちゃにするために 戦うてんのとちゃんねんど!」


更紗「浅葱 やめろ あちあち あんたがヤケドす… うわっ」
<更紗を抱きしめる浅葱>
更紗「浅葱」
浅葱「熱い… 脱いで 鎧が熱いよ」
更紗「浅葱 手を ほかにヤケドは!?
   あんたバカだ バカだよ」
浅葱「なんで僕がバカバカ言われるわけ
   助けてやったのに」
更紗「ずっと見てれば わかるじゃない
   あんた キズとか ケガとかに すごく弱いでしょ
   あたしは けっこう がんじょうなの
   回復も人の倍 かかるし すぐ熱出すし
   薬も効きにくいか 効きすぎるし 肌も弱いし すきキライ多いし
   自分で自分のこと ちゃんと大事にしないと…
   あっ でもごめん ありがとう」
浅葱「見てる…? ずっと?」
更紗「見てるよ 浅葱も見てくれてるじゃない?」
(中略)
浅葱「泣かないんじゃなかったの
   いいのかな タタラとしては」
更紗「いいよ 浅葱しかいないし
   あんた 揚羽のこと よく知ってるから」
<自分は特別なのか…という表情の浅葱>
<火が激しく燃え 咳き込む更紗>
浅葱「タタラ」
群竹「浅葱さま」
浅葱「来るな 群竹! おまえの手なんか借りない」
<敵に見つけられ>
敵「タタラの首をとれ 大手柄だ」
浅葱「そんなウデで 僕と張ろうっての?
   タタラには 指一本 触れさせないよ」

更紗「(太郎ちゃんが殺された
   新しい時代にこそ 必要な人だった
   大切な人を 失くして 失くしてゆく
   いつまで いつまで)
   浅葱 気をつけて 絶対に 死んだりしないで (もう誰も)」
浅葱「何 言ってんだよ タタラ
   僕は今 ものすごく死にそうにないんだよ
   (消えてゆく 馴染みの臭い
    死という感触 20歳まで生きないと誰が言った)
   僕が守るから じっとしてな)」
揚羽「そろそろ 本気で守れよ」
浅葱「(「本気」って 何さ 揚羽)」
揚羽「「本気」で」
浅葱「(そんなもの 知らない 知らないよ)
   上等だあっ!」
更紗「(揺るがない 大丈夫 背中をあずけても 浅葱!)
   浅葱 新しい国になったら あんたは 何をしたい?」
浅葱「そんな先のこと 考えたこともないよ
   (誰が言った20歳まで 生きられないと)」
更紗「じゃあ 一緒に考えよう! 行こうね! 一緒に」
浅葱「(では この力は) 一緒に? どこまでさ タタラ
   (溢れる力は 熱くて 熱くて 熱くて) どこまで行けるの?
   (柊 柊 今なら 今なら きっと おまえにも勝てる」
(中略)
那智「また熱出すんちゃうーん どれ<頭突きを食らわす那智>」
浅葱「いだっ
   (心地よくて… うざったい…」

菊音「自分のしたいようにできないのは いやだね いやだ」

柊「赤の王 あなたは 王家を救うために戻られたのではないということか」
朱理「王家のためを考えたことなど
   オレの生涯 ただの一度もないわ!」
(中略)
「(あとに 残せない あなたは 決して 新しい国に 残せない)
 タタラのためにも
 新しい国 緑の大地 オレこそが 見たかった」

朱理「四道 おまえに よく話したな
   オレたちの造る 新しい国
   オレたちの 緑の街
   四道 違ったのだ わかるか
   オレがあってこその国ではない
   違ったのだ …わかるか
   オレはもうおまえの望むような王にはなれん」
四道「オレが 望むのは おまえ自身だ 朱理
   己の決めた道を 止まらずに 迷わずに
   どこまでも 駆けてゆく おまえの姿だ
   見ているぞ 汚れても 倒れても
   はいつくばって のたれ死んでも 走れ
   おまえの生き様を 見届ける」
朱理「四道 一緒に来い 今度こそ 柊を倒そう」
四道「朱理 それはもう オレの役目ではないだろう」
<今帰仁が柊を攻撃>
四道「行け」
<朱理と今帰仁が柊を攻撃する>
<足を負傷する今帰仁>
朱理「今帰仁!」
今帰仁「大丈夫だ 朱理! やったのか!?」
遊山「どうなったんだ 速すぎて見えな…」
<柊の片手が地面に刺さる>
浅葱「柊!」
朱理「先生 迷いはあなたのほうにあった
   王家は殺せない それが あなたの古さであり 弱さだ」
柊「朱理さま あなたが立派になられたのだ
  わたしは 老いて あなたは大人になられた
  よい友人を持たれたな
  四道さまも そこにおいでか
  多くを学ばれた
  いまだ 木鶏たりえず か…
  (けれど まだ死ねぬ あの方のおそばへ)」
今帰仁「朱理! 追っかけろ! とどめを刺せ
    くそ 足がいたい! 生きてたらやばいぞ おい…
    朱理!?」
<動かぬ朱理>
遊山「朱理のヤツ どう… わっ」
<もう一本の腕が…>
「2本…?」
<赤の王の左腕から血が…>
今帰仁「朱理いいいっ」
ユウナ「朱理!」
橘「赤の皇子! うあああっ」
朱理「今帰仁… おまえの手を借りて やっと互角だったな
   腕の1つや2つ なんぞ
   何を失くしても オレはオレだ
   後片付けをする 残すものと 残せんものと
   オレにしかできん
   なぜなら このオレが
   この国の 最後の王だからだ!」
橘「(皇子… 王家のためを考えぬと言いながら
   誰よりも 誰よりも あなたは あなたこそが
   王ではないか!)」
浅葱「あ… …あ… あ… いや… だ いや…
   いやだ 僕はいやだ
   いやだ いやだああっ ああああ」
更紗「(鮮血が マントを その色に染め変える
   ―――赤の王―――

ユウナ「(駆け寄って 手当てをしなければと 思うのに
    動けない 誰も 近寄れない
    戦場が静まりかえる」
更紗の回想
錵山「白虎の村人どもに告ぐ
   運命の少年 タタラを差し出せ
   我らは 赤の軍
<村を襲う赤の軍。マコトが死に、長が死に、揚羽の目が傷つけられ、
 タタラが殺される、映像と今の更紗と朱理が交互に描かれる。
 更紗は、朱理を見ている。真っすぐな瞳で。>
更紗「赤の王」
<刀を火で暖める朱理。>
<柚香が殺され、長老が赤の軍を道連れに死んでいく映像。>
<墓を作るおばあさん。>
朱理「はあっ はあっ はあっ はあっ はあっ
   おおう おおお… はあっ」
<傷を焼く朱理>
朱理「ぐ・・が・・がっ ががっ<じゅわわわっ>」
<それを見つめる更紗>
<ジュオオ オオ>
<赤の軍を、そして、殺されそうになった過去を思い出す更紗>
浅葱「あ… あ… あ… あ…」
聖「浅葱 なんで泣いてるんや」
浅葱「泣いてる? 誰が」
聖「泣いてるがな」
浅葱「泣いてない なんで僕が
   なんで僕が
   (死んだってかまわない
    ただ死ぬなら!)」
赤の軍の兵「あ… 赤の皇子 赤の皇子
      では 我々は 我々は 死ぬためにここに来たんですか
      後に残せないから 殺すために
      連れてこられたんですかっ」
朱理「オレは 無理やり 来いと言ったか
   来たい者だけ 来いと言った… はずだ」
赤の軍の兵「そんな… そんなことを言われても
      我々は来るしかありません 自分で判断などしたことがないんです」
朱理「なぜ 自分で決められない?
   いつまで 人のいいなりになるつもりだ
   いつまで 人に頼って生きる!?
   この国を 王家を! こんな阿呆のまま 続かせたのは誰か!?
   考えろ それが民だ
   おまえたち兵だ!
   ただ従い 過ちを正さず 逆らわず ただ脅えた
   王家ともども皆が皆阿呆だったからだ
   タタラが起った今も まだ王家に寄り添うか それが楽か
   なぜ 己で決めぬ
   命を置く場所を 死に場所を なぜ 己で決めぬ…?
   支配されるな 間違うな 簡単にのせられるな!
   だまされるな!
   己で 己で…!
<ショック状態を起こしかける朱理>
<更紗の口元が描かれる>
<そして、浅葱>
<膝をつく朱理>
朱理「己で (己の足で<立ち上がる朱理>) 己が! 己の望むことを! 己の望むように! 己で考え! 己で選び! 己で決めろ! 己を信じ 己を頼め 己で荷を背負い 己で責めを負い 己で守れ! 己の意志で 判断で 誇りを持って 己のために生きよ それが それこそが それこそが 新しい区にぞ!! それこそが 新しい国の姿ぞ」

聖「かっこええ男やな 血まみれの泥まみれでよれよれやのにかっこええ」
那智「浅葱 泣くことないやん あれはなんも失くしてへんで
   体の何を失くしても なんも欠けてへん」
何を失くしても 何ひとつ欠けん!
聖「(たいしたもんや タタラ あんたもな そのすべてを受け取ってる 目をそらさずに)」
浅葱「トカゲのしっぽと同じか 同じなんだ は… あいつにとっては
   (死んでしまえ 赤の王!)」
朱理「タタラよ…」
<初めて朱理と出会ったときのことを思い出す更紗>
朱理「タタラ…」
<関東へ行ったときのこと>
朱理「タタラよ」
<沖縄でのこと。焼き印を焼いたこと。>
朱理「王朝 最後の王として おまえに伝える
   今 この瞬間をもって この国を おまえたちに明け渡す!
   ただし おまえにやるのではない 百万の民に 民の手に 返すだけだ
   オレに 言われたくはないだろうが タタラよ!
   この戦でムダに流した血を いつまでも 背負ってゆけ
   国を成すための 痛みと
   流した血を いつまでも 心に枷とせよ
   忘れるな ……京へ 共に来い …タタラ」
更紗「(朱理)」
<赤の王を攻撃しようとする人たちを見て>
千草「どうしたの? 何をしているの? タタラ どうしたいの?」
<赤の王の元へ走る更紗。覚悟をしたような顔をする朱理>
<しかし、更紗が剣を向けたのは、朱理ではなかった。>
更紗「タタラは 赤の王の その心を 今 ここに受け取った!」
(受け取った!)
角じい「こんなものを 見たいんじゃないんです
    (タタラが赤の王をかばう姿など)
    こんなものをわたしは見たいんじゃ…」
兵士「タタラが出たぞ 赤の皇子 ともども 討ち取れ!」
今帰仁「タタラ! 危ない」
<更紗を庇い、剣で応戦する朱理>
更紗「赤の王!」
朱理「タタラ 死ぬなよ」
更紗「それは こっちのセリフだ 下がってろ 赤の王!」
<それを見る浅葱>
橘「皇子 こちらへ! あまり 動かないで下さい! ぐっ<矢が橘に>」
朱理「橘!」
橘「わたしのことなどお構いなく ええ そうですとも
  わたしは時代遅れの古臭いじじいです それで結構!
  あなたをお守りします!」
<矢を折るユウナ>
更紗「ユウナさん!」
<ユウナ、微笑む>
更紗「芭蕉先生も来てます! 早く」
ユウナ「わかった 朱理はまかせて」
聖「おい おれら なんでぼーと見てんのや
  行くで! タタラを守るんや!
  (浅葱…?<動かない浅葱>)」
那智「こらーっ みんな 何してんねん」
茶々「あ…」
<動かない>
ハヤト「お… おう!」
那智「聖ちゃん みんな よっぽど タタラと赤の王が仲良うなんのは
   抵抗あるみたいやな わいも イヤやけどもー まあええか」
聖「根っこの深い問題やで 見てみい 国王軍も戸惑うてる」

国王軍「オレたちはどうしたらいいんだ
    萩原の軍に加わって タタラと赤の皇子を討つのか…?」
国王軍「オレはそうするぜ だって オレらは 殺すために連れてこられたんだろ!
    そんなこと言われちゃたまんないよ」
国王軍「そ…そうだな」
国王軍「そうかな」
国王軍「そうしようか」
国王軍の老兵「わしは 赤の皇子を助けたい
       皇子のお言葉はわしはうれしかった
       1人の人間として こんな身分の低い兵1人1人に
       本気の言葉で 語りかけてくれた
       殺すために 連れてきたんじゃない
       選ばせるために 来たんだと わしは思う
       まだ間に合う 自分で決めるんだ
       わしは 自分の判断で 皇子にお見方する」
国王軍「おっおい…」
国王軍「(自分で)考えなければ………
    ものすごく考えなければ
    (自分で選ぶ なぜなら自分のためだからだ!)」
朱理「遠くで 足音を聞いた 1つ…… 2つ……」
国王軍「赤の皇子!
国王軍「赤の皇子! 
国王軍「オレたちは
老兵「わしらは」
国王軍「自分の意志で あなたと運命を共にします!
    連れていって下さい!!」
(中略)
芭蕉「まあ 血の気の多い男だからの 多少 抜けたほうがよかろうて」
ナギ「先生 戸板で運びましょう ここでは 何も…」
芭蕉「おお ナギ 頼むぞ」
朱理「あんたがナギか」
ナギ「わたしを?」
朱理「一度 会ってみたかったぞ<ナギのことを話す更紗を思い出す朱理>」
ナギ「わたしも お会いしたかったですよ」

朱理「(更紗!!)」
更紗「駆け寄って 「朱理」…と
   まだ
   まだ 泣くわけにはいかない
   まだ
   タタラだから」
(中略)
更紗「角じい わたしも 村を襲った赤の王は 今でも憎いよ
   (だけど)
   だけどね あの血の吐くような叫びを 心を
   受け取れない 人間には なりたくない」
角じい「タタラ…」
千草「角じい」
角じい「千草さん」
千草「子供は 成長するんですよ
   自分しか見えなかったものが 相手を見るようになって
   やがて多くを見て 多くの人を知って
   国を見るようになるんです
   年をとると それがまた 逆になっていくのかもしれませんね
   角じい 狭い所しか 見えなくなってはいないですか?」
多聞「「心を受け取る」と書いて 「愛」と読むのだす」
七尾「は? また何か言いました? 兄さん」
多聞「ううんー 別にー」
増長「なるほど イキなことを言う」

群竹「浅葱さまの赴かれる所に
   わたしはついてまいります」

浅葱「タタラ」
更紗「浅葱! お疲れさま 大丈夫?」
浅葱「タタラさ もし 僕と朱理と どっちかを選ばなきゃならないとしたら
   どっちにする?」
更紗「絶対 選ばなきゃいけないの?」
浅葱「そう」
更紗「じゃあ 浅葱にする」
浅葱「そんな おべっか言わなくても」
更紗「ちがうよ あんたに おべっかゆってどうするの 仲間が一番大事だよ」
浅葱「そう ありがと」
更紗「浅葱? 浅葱!<浅葱の手を握る更紗>」
更紗「なんだかわからないけど わたしが信用できない!?
   何かあるなら 言いなさい ちゃんと
   ちゃんと 聞いて 一緒に考える! 浅…」
<更紗に口付けをし、突き飛ばす浅葱>
更紗「あ…浅…<口の中にはピアスが>
   (青い 浅葱の
   浅葱 誰か… 聖さん!」
浅葱「神さま 神さま 神さま 神さま
   そんなものは いない
幼少時の浅葱「(神さま 神さま 神さま)<1人でいる浅葱、熱を出している浅葱>」
浅葱「決して いない」
聖「タタラ」
更紗「聖さん 浅葱を見てて」
聖「おれも気になってた
  どこや」
聖「浅葱!」
那智「浅葱っちゃーん」
聖「浅葱 どこや どこ行ったーっ」

浅葱「(夢見ていたはずだった 遠い昔に
    何度も繰り返し 自分に問うた
   「僕は誰」 「僕は何」 「僕は誰」」

萩原「ま… 待て 待て 何が悪いのだ
   きさまとて 同じだろう
   私も天下取りレースに参加しただけだ
   タタラや赤の皇子と同じくな!」
揚羽「同じじゃない これを 天下取りレースだと言うのが
   そもそも 間違っている
   この戦は 天下というものを失くすための 産みの苦しみなんだよ!
   なぜ わからない (だからあの娘は戦っている)
   戦っている 泣きながら
   だから 太郎ちゃんは 走った
   だから オレは 迷わない」

今帰仁「朱理!」
朱理「止めるな 今帰仁 オレは行く!
   人は 血を流したから 死ぬわけじゃない
   (弓が引けない 助けたいのに)
   オレにとって 死ぬということは
   何もできず ただ じっとしているということだ
   今 行けないのなら 命なんぞ なくていい!」
<朱理を殴る今帰仁>
今帰仁「僕の兄貴は 血を山ほど 流して 死んだよ
    間に合わなかったんだ!
    おまえまで 行くなよ
    僕は もういやだ!」
朱理「じゃあ 手を貸してくれ
   一緒に来て 肩を貸してくれ 頼む」
今帰仁「朱理……」

蘭丸「ちっ」
梅若「女が生意気な バカめ 自分も動きにくいだろうが」
菊音「女で悪かったわね いつもいつも」
「なんで女が仲間なんだよ どうせ ついてこれないくせに」
菊音「女だってことがいやだった
   男になりたかった
   (だけど!)」
市松「おう! マイ・ハニー 菊音じゃん!?
   タタラを見かけたんで追っかけてきたんだけどさ
   何やってんだ!?
   なんだ そいつら やばいのか!?」
菊音「今は 女の子でよかったと思う」
市松「ここを開けろ!
   俺が始末してやる」
菊音「お市さん ありがと
   でも これは あたしのけじめの戦いなの」
市松「そうか わかった
   ここで見ててやる存分にやれ」
菊音「ありがとう
   (けじめをつける 人生に
    でなければ いつまでも この先を歩けない)」

更紗「城は落ちます
   逃げて下さい」
役人「な…何!?」
更紗「逃げて 命を大切にして下さい」
役人「おい…」
役人「ああ」
役人「なんとなく わかる気がする なぜあの人に負けたのか」

(なぜ?)
国王「兄たちを殺し 王になれば 王になれば
   すべてが手に入るはずだった
   なのになぜ 何もかもなくなっていくのだ…?」
銀子「すべて というのは 何もない のと同じことです
   お父上 あなたは 幸せすぎたのですよ」

更紗「こんなとこにいても意味ないよ 帰ろう 浅葱 帰ろう」
浅葱「(帰る…?) でも僕には 意味があったんだ
   僕にしかできなかった (どこへ…?)
   赤の王にもできなかったんだ」

朱理「オレはまだ神には祈らない―――――」

浅葱「僕はね 根なし草(デラシネ)だったんだ
   ほんとは 蒼の王だと言われ
   その言葉しか 信じるものがなかった
   僕は 何者でもなかった
   どこにも 場所はなかった
   僕は ただ 寄生して
   小さい虫のように生きてきたんだ
   でも今は 蒼の王だよ
   都に人がいなくて 城に人がいなくてもね」
更紗「タタラ軍では 根を下ろせなかったの?」
浅葱「タタラ軍!?
   タタラ! バカじゃないの 僕はね
   僕は 白の王に言われて
   あんたらの中に入ったんだ
   探るために 邪魔するために だからね
   だから これは 予定通りなんだよ
   あんたらを裏切るのはね」
更紗「ちがう
   その気なら 出ていく時に わたしの首でも 仲間の首でも
   掻き切って 手みあげにすることだってできた
   なのに あんたは 残していったじゃない
   片方のピアスを どうして?
   蒼の王と浅葱 2つのうち 片方の心を あんたは タタラ軍に残していった!
   だから まだ 信じてる
   タタラだから それがタタラだから
   タタラは 朱理を選ばないよ タタラは 仲間をおいていかない」
浅葱「(熊野で 茶々と座木のために あんたは炎の中に飛び込んだ
   僕は あの時 笑ったんだ バカバカしいねって
   ああ バカバカしいねって)」
朱理「更紗!」
更紗「(朱理!?) 来るな 赤の王 来るな!」
浅葱「僕は タタラの責任でなんて ものを言われたくないね
   「仲間」なんて言葉で一緒くたにされるのは まっ平だ」
更紗「だけど あんたにとって わたしはタタラだ
   タタラでしかない
   ちがうの? 浅葱 更紗に用があるの?
   帰ろうよ 帰ろう 浅葱」
浅葱「(更紗…? そんな人は知らない
   僕のものになってよ) 帰らない (タタラ 朱理じゃなくて 僕の)」
更紗「一緒に行こうって 言ったよね
   タタラなら 地獄の底まで つきあうよ
   (刺し違えても)」
朱理「(オレはまだ 更紗と)」
更紗「(連れて帰る 刺し違えても)」
朱理「(更紗)」
今帰仁「どけ 朱理!」
<更紗の元へ走っていく朱理>
今帰仁「朱理」
<更紗を抱きしめたかと思った浅葱だったが、目の前には、朱理がいた>
更紗「(全身の血が 沸騰する)」
朱理「阿呆 阿呆が」

(中略)

更紗「浅葱 ここは まかせたよ 浅葱」


揚羽「(怖くはない 同じ魂を知っているから)」

更紗「(命を賭けるということは
    死んでもいいと思うこととは 絶対に違う)」

浅葱「おまえが 片腕を失くしたくらいじゃ 僕に勝ち目はないのかもしれない
   でもね たとえ 僕が技のみだとしても
   今 負ける気はしないんだよ」
群竹「浅葱さま」
浅葱「手を出すなよ 群竹!」
柊「技のみ?
  では ご自分では お気づきでないのか
  今 あなたに備わっている その満ちた気はなんなのです?
  そこにある 心と体は なんなのです」
柊「どうして うれしそうなのさ」
柊「師匠ですから
  わたしもずいぶん中古(ロートル)になりましたが 参ります」

国王「ああ… 余は何もしていない
   運が悪かったのだ よりによって 余の代にこんなことが」
更紗「何もしなかったからです
   国が乱れても 各地で 暴動が起こっても
   不満が吹き出しても 何もしなかったからだ」
朱理「トップが無能だということは
   それだけで罪だ
   オレの知る限り あんたは自分を鍛えることも
   部下を鍛えることも 国を守ることも してこなかった
   その弓が 今のあんたそのものだよ」
更紗「あなたのような人を目指して 戦ってきたのかと思うと 悔しい
   みんな 懸命に生きて 生きようとして 死んで 亡くして 生きて
   あなたもそうでしたか!?」
国王「あ…浅葱 浅葱はどこじゃ 銀子! 浅葱は…」
更紗「浅葱も戦ってる 自分のために 越えていくために 先へ行くために
   あなたもそうでしたか!? 少しでも
   (戦ったか? 足掻いたか? 心で考えたか?
    恥じることなく生きてきたのか!)
   あなたはどうでしたか 鬱金王!」

浅葱「姉上」
銀子「あなたも わたくしを捨てていくの」
浅葱「先に捨てたのは あなただ
   僕は なんだってしたのに
   あなたに欲があって 女王になりたいというのなら
   僕は あなたのためになんだってしたのに!
   でも あなたは ただ 滅びたかったんだ
   国王もタタラも赤の王も この国さえも
   ご自分のことですら
   すべて 滅ぼしてしまいたかったんだ
   僕も そうだった ずっとそう思ってた
   でもね… 今はね 滅んでほしくないものが ある」
銀子「わたくしにほかの生き方があったというの?
   王家の男たちのように権力を得ることもできず
   普通の女としての幸せもとうに奪われて」
浅葱「柊と愛し合って おられた」
銀子「ホホホ わたくしは夫を殺した柊を憎んでいたのよ」
浅葱「(愛していたでしょう)」
銀子「それで? あなたがわたくしを殺してくれるの?
   少し 力不足だわね」
浅葱「姉上?」
銀子「姉上などと呼ばないで 卑しい子が
   自分が蒼の王だと 本当に信じていたの?
   一度でも 母が会いに来て?
   証拠の品があって?
   ねえ? 浅葱という名の由来を知っていて?」
浅葱「青い…色の 名前…」
銀子「そう 安っぽい青
   田舎者の裏地の青 囚人服の青 藍に足りない 薄い染めの貧しい青
   本当の蒼の王にどうしてそんな名をつけると思うの」
浅葱「姉上… 姉上!!」
浅葱「ウソだ… じゃあ 僕はなんです
   僕はなんなんです」
銀子「知らないわ」
銀子「ボロ布のような産着を着て
   捨てられていたのよ
   顔立ちがきれいだったので 拾ったの
浅葱「姉上…」
銀子「四君子やほかの子たちと同じよ
   あなたは本当の蒼の王だと言ったら
   すっかり信じたわね バカな子
   ただ 都合の良いように使われていたとも知らずに」
浅葱「姉上えええっ」

揚羽「時代の見えねえヤツよなあ
   終わったんだぜ
   もう誰も王家のためになんか動いちゃいねえ
   いつまで役人ぶっていやがるんだ バカヤロウ!
蜂也「時代が見えようが 見えまいが 譲れぬことがある
   ここで引くことは 父や母の苦渋に満ちた生涯を 己を! 否定することになるのでな」
揚羽「そんなものに 縛られて 気の毒だな」
蜂也「縛られぬ者に 何を言う資格があるか!
   いいか 間違えるな 貴様らが正しいから勝つのではない
   勝つから 正しいとなるだけだ
   歴史上はそうなるのだろう
   だが 間違えるな
   貴様らは ただのテロリストどもだ
   世を乱した破壊集団にすぎぬ!」
<夜郎組が放った矢が>

浅葱「もう…いい…」
銀子「浅葱?」
浅葱「もう いいんだ そんなこと もう……」
群竹「浅葱さま 白の大姉は あなたを怒らせようと そんなウソを」
銀子「本当のことよ あなたはただの捨て駒 どうしたの 浅葱」
浅葱「(僕は何) もう… いいんです
   言ってくれてありがとう (僕は何…)
   ありがとう…」
銀子「わたくしを斬らないの 浅葱
   斬りなさい 浅葱 斬って」
浅葱「(僕は……)」
群竹「浅葱さま タタラから手紙です
   城が崩れるから 逃げろと 浅葱さま…」

更紗「立って 立って! 赤の王」
朱理「先に… 行け 行け あとで… 追いかける」
更紗「(置いて…… 行く…!?)」
ナギ「もう ダメかもしれないと 思った時に
   座り込んでは いけませんよ
   一度 座り込んで しまったら
   二度と立てなくなりますからね
   その時は 死んでゆく 時だと思いなさい」
更紗「(置いて行ったら あなたは来ない
    立たない
    最後の王として この城とともに滅びる
    死んでほしいと思うか?
    少しでも
    かつて願った 赤の王の死を
    今も 願うか? 少しでも あたしは!

夜郎組「討て! 討ち取れい」
揚羽「邪魔するな 夜郎組! オレは手が一杯なんだよ てめえらも 生き埋めになりたいのか!」
蜂也「貴様は 我ら仲間のことごとくを斬った
   大老はじめ 重臣の多くも 革命という大義名分の陰でな
   平穏無事な時代なら かなった望みが おかげで消えてしまったわ」
揚羽「どこの平穏無事だ どこにあるんだ そんなものが
   (そんなものはない どこにもない! オレの見てきた世界には
    けれど その中にも)
   生きて 生きて 生きている者たちがいる
   (そのすえての願いだ)
   おまえなんかに 太刀打ちできるかあっ」
浅葱「(生きて 生きて 生きてきた
    いつ死んでもかまわないと思いながら 僕は何 恐れ 己になんの価値があるのかと 怯え 
    けれど その答えを僕は おそらく僕は もう知っているんです 姉上
    心のどこかで
 更紗「浅葱」」

更紗「人がいる… あんな所に… 女の人…?」
<亜麻の方が飛び降りようとしている>
朱理「母上」
<こちらを見る亜麻の方>
朱理「母上 あなたが死ぬことはない!」
<亜麻の方…>
朱理「いつも この距離だ
   望まず 望まれず 抱きもせず ただ 産んだだけの母だった」
更紗「
 朱理「能無しの親父と 兄2人とほかに大勢いる」
   お母さんのことは 一言も言わなかったね
<朱理の袖を掴み>
   ただ産んだということは すごいことなんだよ
   3日や10日で生まれるんじゃないんだもん
   1年近くもお腹の中にいて その間 お母さんは 気をつけて 気をつけて 大切にして守って
   苦しんで 苦しんで 苦しんで 産むんだもん
   産みたくて 産んで 生まれたくて 生まれてくるんだよ
   みんなそう 絶対に
   だから 大切でないはずがない 絶対に
 (愛していなかったはずがない)

更紗「(ああ…… 今 はっきりと思う 生きてほしいと)
   タタラとして 最後に あなたを仇と思う 人たちの前に 連れていく
   (あなたが赤の王でも朱理でも たとえ 村を滅ぼした 赤の王でも 生きてほしいと」

揚羽「その程度の腕で このオレが斬れるかっ」

密「前に私にききましたね 何を信じているのかと
  私はね 蜂也さんを 信じているんですよ
  蜂也さんに拾われなかったら 盗賊にでもなるしかなかったですからね」
揚羽「互角だな」

揚羽「ここは 風の吹きだまり……か」

浅葱「(心のどこかで 知っているんです 姉上  浅葱「僕は何 僕は何 僕は」)
那智&聖「…ちゃう もっと右! もっと右やて あほ 行きすぎや あかん こっちこっち どっち! おっしゃあ ぴったし」
浅葱「(僕は)」
那智「浅葱!」
浅葱「(僕は)」
聖「熊野へ来い!!」
那智「おまえのキライな田舎やけどなあ 筍もおいしいし まったけも採れるし じゅる」
浅葱「(僕は何)」
那智「ええもん 食わしちゃるで ほやから おいなあて」
聖「食うことばっかしかい」
浅葱「(………僕は僕 僕は僕―――
 浅葱「何が欲しかったか
    きっとずっとわかってた なぜ惹かれたのか きっと……
    ――――憧れるものに似ていたのだろう―――」
浅葱「僕は… 行かない もう 寄生しては生きていかない
   1人で 自分で生きていく」
群竹「お供します」
聖「浅葱 熊野へ来んのは」
那智「寄生とちゃうと思うで いつでもおいなあよ」
群竹「浅葱さま お早く もう あまりもちそうにありません」

揚羽「借りはもう 返してもらったよ」

銀子「淡路が 燃える 柿人 柿人 柿人」

更紗「(燃えさかる炎のようで 清らかな水の流れのようで 暖かい大地のようで
   決して支配されない 風のような人だった)」

朱理「頭は下げぬ オレは 己の過ちを 己の阿呆さ加減を 詫びる言葉など 知らん
   己の体で 返すことしかできぬ
   だから 頭は下げられん」

朱理「オレを討ちたいなら 討つがよいタタラ
   オレはオレを全うした 悔いはない 討つなら討て タタラ
   オレは 最後の王として それを受け取ろう」

千手「やめて下さい!」
更紗「千手姫… ダメだよ こんなとこへ」
千手「やめて下さい タタラ 赤の王 あなたがたが傷つけ合うことはありません
   人を憎む虚しさを 教えてくれたのは あなたではないですか タタラ」
求道「あー ターター」
更紗「求道くん…」
求道「ターターア ターター
   タター タターア ターター タターア」