SARADA
登場人物
角じい、ナギ、揚羽、浅葱、群竹、菊音、市松、更紗、朱理、千草、那智、聖
角じい「わたしゃ常々訊いてみたかったんだが
あんたは一体そもそも何者なのかね ナギさま
あんたは白虎の村の先代の医師が
遠縁の者で 跡継ぎにすると言って
連れてきた人だったが
本当にそうかね?」
ナギ「わたしは わたし以外の何者でもありませんが
…そうですね うまれのことを言うのでしたら
生まれた場所にそのまま居たのなら
わたしは 更紗の敵になったかもしれませんね」
角じい「な…なんですと
王家側の人だったのかね」
ナギ「わたしは 父親に殺されかけた子供でした
矢を射られ 川に落ち 流れ 芭蕉先生に助けられたのです
人は どこに生まれるかということより 誰に出会うか 出会わないかが
大切だと思いませんか 角じい?」
出会うということ
揚羽「なんだ おまえは 何をしてる
ケガをしてるのか?」
浅葱「うん ちょっとね 野犬退治でミスった
このままほっとくと 僕 死んじゃうかもしれないな
でも別にいいんだ 死んだって
誰か知らないけど ほっといてよ」
揚羽「このオレの前で 別に死んでもいい なんてセリフが
まかり通ると思うのか ガキ」
浅葱「冗談だよ もう少し 生きてるつもりだから」
揚羽「生きたかったら 生きたいと言え
まず 願え」
浅葱「熱血漢だね お兄さん」
揚羽「揚羽だ 弁当食うか? ガキ」
浅葱「浅葱だよ」
角じい「出会いか…
うーむ確かに… わたしも北陸生まれだが
その後色々あって
……
いや はぐらかさんでもらいたいな
そのそもそもの生まれを訊いとるのだ わたしは」
ナギ「芭蕉先生に拾われた時は 瀕死の状態で
高熱が何日も続いたそうです
熱が引いた時 わたしの視力はなくなっていました
はじめはグレてしまいたいと 思いましたよ」
角じい「あんたがかね」
ナギ「冗談ですよ」
(赤くなる角じい)
ナギ「わたしは 書物を読むのが好きだったので それが悲しかったのですが
けれど 芭蕉先生の弟子に物知りな女性がいて
お話をしてくれるんですよ
面白おかしく 時には 書物をひもときながら
歴史の話や 異国の話や 様々な人々の話を
優しい女性でした 心豊かな わたしは これからも 生きられると思いました」
愛されるということ
群竹さんは、洗濯物を干している
群竹「おや 菊音 久しぶりですね
お嫁に行くと聞きましたが」
菊音「はい あの 群竹さん」
群竹「今までのことは忘れて 幸せになりなさいね」
菊音「ありがとうございます! ……あの
群竹さん あたしずっと 群竹さんのことが好きだったんです」
群竹「そうですか もと四君子筆頭として うれしい限りですね
どうも ありがとう」
市松「おう ちゃんと 言ってきたか?」
菊音「うん 予想どおりのリアクションだったよ
すっきりした」
市松「じゃあ 心おきなく来い
楽しく 幸せになろーぜ」
角じい「そ…それは 初恋話かね
あんたにもそんな話が
その女性は そうしたのかね」
ナギ「亡くなりました そのあとすぐに」
角じい「それは… …… はっ
いや だからはぐらかさんでくれるかね」
ナギ「わたしはね 角じい わたしは 鬱金王の第2皇子でした」
角じい「なんと!?
む…いかんいかん ひっかかりませんぞ
そういう冗談もやめてくれるかね」
ナギ「ええ 冗談ですよ」
角じい「それで 本当のところは…」
ナギ「更紗は元気にしてますかねえ」
角じい「お こないだ手紙が来てましたな
船を一隻 手に入れたとか…
がんばっとるようですなあ」
ナギ「あの子は わたしにとって たった一つの光です 今も」
愛するということ
更紗「朱理――
荷積みが終わったよー」
朱理「よし! 出航だ!」
更紗(or朱理)「水が多い国も ない国もある
木が多い国も ない国もある
海のある国と ない国がある
暑い国と 寒い国がある
すべてが商売になる」
朱理「世界は面白いな 更紗」
更紗「面白いね」
更紗(or朱理)「どこまでも 一緒に行こうね」
角じい「更紗の話を出せば
わたしをはぐらかせると お思いかな いやいや」
ナギ「角じい トマトは 野菜でしょうか? 果物でしょうか?」
角じい「は? や…野菜のような気がしてたが… ち…ちがうのかね」
ナギ「トマトにとっては どっちでもいいことでしょう
ただ一個のトマトとして その人生をまっとうすればいいのです」
角じい「あ いや だから…」
那智「わーおばんですー!
おみやげ持って 遊びに来たでーん
聖ちゃんの新婚旅行みやげやねん
東北に行ってんでー みちのく2人旅! しぶっ」
千草「お茶にしましょうか」
角じい「あ 千草さん わたしが」
那智「しぶしぶの茶 入れてー」
聖「しぶて言うな」
角じい(やれやれ結局はぐらかされたのかね)
<微笑むナギ>
それは ある月の美しい夜――