単行本にして27巻にも及ぶ大作「BASARA」に残った一つの謎。
それは、浅葱がいったい誰の子供で何処からやってきた子供であるのか、という謎。
浅葱の出生については、田村先生が、
1.「わたしの中には一つの仮説がありますが、内緒(ごめん)。
浅葱はそういえばとても彼に似ているよ。」
(この「似ている」とは、恐らく、
「血縁関係があるために、顔などが似ている」という意味だと思います。)
2.「浅葱は、(1)国王と銀子の子 (2)柊の子 (3)拾ってきた子 のどれか」
という二つのヒントを与えてくださっています。
私は、この二つのヒントから、一つの矛盾に気づき、二つの違和感を感じました。
*まずは、一つの矛盾について
それは、1と2の(3)の発言を合わせた際に生じるもので、
捨て子の父親の顔を読者が知るはずがない、というものです。
となると、(3)の選択肢が答えだった場合は、消滅します。
消滅するはずです。が、選択肢の一つとして、残されています。
その理由は、何なのかと私は、考えました。
選択肢が二つだと少なすぎるので、もう一つ選択肢を加えた、とも考えましたが、
私は、この一見矛盾した選択肢こそ答えなのではないかと思いました。
つまり、その答えとは、「浅葱は、拾ってきた子であるが、誰かに似ている」。
*そして、二つの違和感について
一つ目
「一つの仮説」とは、いったいなんなんでしょうか。
「国王と銀子の子供」という答えだったとした場合、
仮説も何もMADARAのストーリーが答えそのものなので、
仮説を立てる必要がないのではないかと思うのです。
二つ目
田村先生の「浅葱はそういえばとても彼に似ているよ」という台詞からも、もう少し考えてみましょうか。
この言葉から、「浅葱とある人物が似ている」ということがわかりますが、
この言葉に、現在、有力な父親候補である人物を当てはめてみると、ここでも少し、おかしなニュアンスになります。
「浅葱はそういえばとても柊に似ているよ」
「浅葱はそういえばとても鬱金王に似ているよ」
「そういえば」?
「そういえば」という言葉は、「ふっと思い出した」ときに使われるものだと思います。
この言葉を使うのは、ちょっとおかしなことなのではないでしょうか。
なぜならば、作品中の取り扱いにおいて、また、作品終了後の読者の意見の中で、浅葱の父親の最有力候補となっているのは、
柊と鬱金王だからです。
もし、このとき、作品中で、鬱金王、そして、柊が浅葱の父親である伏線を書き、連載終了後の読者のファンレターによって、読者の意見を知っている田村さんが、「浅葱と柊(鬱金王)は、似ている」という言葉を使われるのならば、
「浅葱はやっぱりとても彼に似ているよ」という言葉を使われるのではないでしょうか。
田村さんが「そういえば」という単語をお使いになった理由は、
「やっぱり」という言葉を書いた場合、すぐに、父親が限られてしまう(=三番目の選択肢が無くなってしまう)、という理由からだったとも、考えられますが、
私は、そうではなく、この言葉自体が大きなヒントで、1と2の答えではないというヒントだったのではないかと思いました。
以上の二点の点から、私は、「浅葱は、拾ってきた子であるが、誰かに似ている」というのが答えなのではないかと思いました。
その仮定に合う状況とは一体どういう状況か、と私は、考えました。
考えてみたところ、最初に思い浮かんだのが「浅葱は、砂漠の青い貴族なのではないか」という考えでした。
砂漠の青い貴族といえば、揚羽が思い浮かびます。
ご存知の通り、揚羽は「砂漠の青い貴族」の末裔です。
そして、外伝には、「アロ」という女性も登場いたします。
ということは、つまり、浅葱は、揚羽(もしくは、アロ)の弟であり、
浅葱に似ている人物とは、揚羽(もしくは、アロ)なのではないでしょうか。
「砂漠の青い貴族」は、揚羽がまだ幼い頃に一度一斉に虐殺したことがありましたよね。
その命令を下したのは、国王であったはずです。
揚羽の年齢と浅葱の年齢(揚羽は浅葱より四歳年上)を考えてみても、
「砂漠の青い貴族・一斉虐殺」の時期(揚羽が物心がつく以前の話だから、揚羽が4歳未満の頃でしょうか)と浅葱の誕生前後との時期的なことを考えても、タイムラグがそんなにはないように思えるんです。
国王側は、「砂漠の青い貴族」の殆どを虐殺したが、
揚羽と浅葱の兄弟は、幼かった上、容姿も端麗だったので、助け、
揚羽は、国王の弟のところへ奴隷として預けられ、
浅葱は、柊の手によって、人身御供に銀子のところへ置くことにしたのではないかと私は更に考えました。
柊は、黄土隊の隊長にもなったような人物ですから、国王軍が捕らえた「砂漠の青い貴族」のうちの一人を自分の思うままにすることなど、簡単なことだったはずです。
そして、その考えが浮かんだ後、揚羽について、以前、こんなことを思ったのを思い出しました。
揚羽が「砂漠の青い貴族」だということは、わかったが、
なぜ、その揚羽が四道の家に奴隷として売られたのだろうか、というものです。
確かに、「砂漠の青い貴族」は、厄介なので、奴隷として生かそうとしたのは納得できます。
けれど、なぜ、それが四道の家だったのでしょうか。
そこで、私は、こんなことを思いました。
柊にとって、揚羽と浅葱に対する行為は、一種の復讐なのではないかと。
柊にとって、国王は、銀子を襲った憎むべき人だったはずです。
柊は、国王、つまり、王朝が滅ぶことを望んでいたのではないでしょうか。
「砂漠の青い貴族」は、誇り高い人たちです。
その誇り高い人たちが好き放題をする王族をそのままにしておくはずがありません。
何らかの形で、王家を滅ぼすための行動をするはずです。
柊も、そんなことを考えて、砂漠の青い貴族の末裔である二人の兄弟を、
別々の王家に関わるところで、生かすように仕向けたのではないでしょうか。
王家により、親兄弟、仲間を奪われながらも、
その事実が幼いためにわからないまま、
王家の元で成長していった二人の兄弟があるとき、
その真実に気づいてしまう。
当然、その兄弟は、王家を何とかして滅ぼそうと思い、
僅かに生き残った「砂漠の青い貴族」とともに立ち上がるでしょう。
揚羽たちは、銀子を襲った国王を倒し、同じく王族にいる黒の王、赤の王を倒します。
だが、もちろん、柊にとって、銀子は、何があっても、死なせたくない存在、そこで、浅葱です。
浅葱には、銀子は、小さい頃から、姉だと思い込まされており、
浅葱は、銀子を慕っています。
たとえ、本当の姉ではないとわかっても、
果たして浅葱には銀子を殺めることなどできるでしょうか。
浅葱は、きっと、銀子を殺すことなどできないでしょう。
ですが、「砂漠の青い貴族」は、彼にとっては、大事な仲間です。
そこで、浅葱は、迷宮をさ迷うことになります。
浅葱にとって本当の迷宮とは、王家が倒れようとするときに始まるものだったのです。
浅葱と揚羽が兄弟だった場合の伏線と考えられる台詞。
ちょっと怪しいんじゃないの?その1
瑠璃の章1・寄生虫
◇揚羽「浅葱 ケガはないか?」
浅葱「ああ 疲れた」
揚羽「あんな体育会系とまともにやりあって かなうか! アホ!
気をつけろよ もし ケガでもしたら…」
浅葱「うん ありがと わかってるよ
揚羽だけだ 僕を心配してくれるの」
揚羽「蒼の王は 実は浅葱さんでした …か
たいして意外でもねえけどな」
揚羽がやけに浅葱の心配をしています。
このやり取りがあるまでは、
浅葱が揚羽の美しさに惚れこんで慕っているが、
揚羽は、我関せず、という感じがしていたので、
私は、少し、不思議に思いました。
(ただし、それについては、SARADAにて、少し、描写がなされています。)
ちょっと怪しいんじゃないの?その2
瑠璃の章3
雷蔵「八方美人なヤツだな」
揚羽「何が そりゃ美人だけど」
雷蔵「食えないヤツってことさ
もうずっと オレたち 反乱軍に協力してくれてて
タタラとも親しい なのに 浅葱のようなヤツとも懇意にしてるとは
ヤツはなぜタタラのもとに来た
何か聞いてないか?」
揚羽「聞いてるよ べらべらしゃべる気はねぇけどな」
雷蔵「それみろ やっぱり 食えん」
揚羽「オレはただあいつが不憫なだけなんだ
あいつにいいようにされるなら タタラがバカだってことさ オレは知らん」
雷蔵「おまえはタタラには厳しいな タタラは不憫じゃないのか?」
揚羽「さあね」
これは、序盤の揚羽と雷蔵の会話ですが、
この語りから、雷蔵は、揚羽に対して、「浅葱と懇意にしている理由」を訊ねています。
それに対する揚羽の答えは、「不憫なだけなんだ」ということですが、
よーく考えてみると、「それだけかなあ?」という気になってきます。
(これも、その1と同じく、一応、揚羽と浅葱のエピソードは、SARADAでも、付け足されているので、
それを読んで、「なるほど」と思うことはできるかもしれませんが、
でも、なんか、あやしい気がします…。)
ちょっと怪しいんじゃないの?その3
番外編・―――幕の内―――
浅葱「時々 思うんだけどさ
揚羽って 僕の兄さんじゃないのかな」
揚羽「おまえの兄貴なら 王族だろうが」
浅葱「まあね
1人いるんだ 子供の頃 死んだはずで でも死体は上がってなくて
もしかして 生きてんじゃないかって…」
揚羽「ふーん そいつ 生きてたら いくつぐらいさ」
浅葱「30くらいかな…」
揚羽「わしゃ30かい」
浅葱「…そうだよね わかってるんだけど」
揚羽「らしくないな もし兄貴が生きてたら ひしと抱き合って 感動のご対面でもしたいわけ」
浅葱「そういうんじゃないけど ただ1人 父も母も同じ兄弟なんだよね
……なんかね……」
ナギの声「浅葱! そこにいますか」
浅葱「はーい ナギ?」
ナギの声「ちょっと来て下さい 剣のけいこのスケジュール調整をします」
浅葱「はーい」
揚羽「なんだ こき使われてんのか」
浅葱「ナギは僕を見張ってるのさ
ナギは苦手だよ<でもどこか嬉しそうな浅葱>」
<楽しそうにナギについていく浅葱を見て>
揚羽「(ふうん… 苦手…ね)」
これは、番外編での台詞のやり取りですが、
この番外編では、この時点では、王族の1人と考えられていた浅葱の兄、
つまり、鬱金王の第二王子について、話されています。
此処から先は、ちょっとしたネタバレになってしまうのですが、
実は、この鬱金王の第二王子とは、ナギのことです。
ですから、浅葱(この時点では、王族)がナギに対して懐いているという描写は、
その伏線とも考えられたのですが、
最終章にて、その考えは、不確かなものになりました。
それは、それとして、揚羽を自分の兄なのではないかと思う浅葱の考え(というか、直感?勘?)は、
信用してもいいような気がするのですけれど、どうでしょうか。
ただ、気になるのが
浅葱「ナギは僕を見張ってるのさ
ナギは苦手だよ<でもどこか嬉しそうな浅葱>」
<楽しそうにナギについていく浅葱を見て>
揚羽「(ふうん… 苦手…ね)」
という会話なんですよね。この会話から、二人(ナギ&浅葱)の仲の良さから、兄弟なのでは?
とも考えられるんです。
ここでは、私は、この会話の意味を、ナギ自身が、浅葱の心(浅葱は、この時点では、蒼の王だと思っています)を読むなどして、
浅葱が蒼の王、つまり、ナギの弟だということを感じ取り、
そのために、表立ってはそれを見せないまでも、
心の中では、浅葱を可愛く思っていたことからの結果である…という風に捉えたんですけれど、
もうなんだかよくわかりません。わたしは何を言っているんでしょう?
この考えは間違っていて、ナギは、浅葱に対して好意など抱いておらず、
ただ、最初に感じた邪悪な念のために、浅葱を警戒し続けた、と考えた方が普通…なのかもしれないです。
ちょっと怪しいんじゃないの?その4
SARADA
揚羽「なんだ おまえは 何をしてる
ケガをしてるのか?」
浅葱「うん ちょっとね 野犬退治でミスった
このままほっとくと 僕 死んじゃうかもしれないな
でも別にいいんだ 死んだって
誰か知らないけど ほっといてよ」
揚羽「このオレの前で 別に死んでもいい なんてセリフが
まかり通ると思うのか ガキ」
浅葱「冗談だよ もう少し 生きてるつもりだから」
揚羽「生きたかったら 生きたいと言え
まず 願え」
浅葱「熱血漢だね お兄さん」
揚羽「揚羽だ 弁当食うか? ガキ」
浅葱「浅葱だよ」
この外伝によって、
揚羽と雷蔵さんとの会話の中のちょっとした違和感が少しだけ解消された気がします。
「こんなに前から知り合いだったのね」みたいな。
と、ここまで書きましたが、この私の説(というか、妄想に近い…)に対する色々な方のご意見を拝聴すると、
「国王・銀子」という答えが合っているのではないかなあ、とも思いました。
(この文章を書いているときは、何かものすごい大発見をしたような気分になっていました。お恥ずかしい。)
でも、色々な説があった方が楽しいのではないかと思い、この考えは、消さずに残しておきます。